往診(訪問はりきゅう)後縦靱帯骨化症 83歳男性③
治療を始めて3カ月。
治療中、頭にはり(灸頭鍼)をしている時、突然こんな話をしてくれました。
「あれはな~30歳の頃だったかなぁ。大きな事故に遭ってな。バイクで後ろから追突され全身打撲をした。意識が戻ったのは病院のベッドの上だった。全身が痛くて動けなかった。両腕、腰、頸の痛みがひどくてひどくて。夜も眠れなかった。その10年後に頸の後縦靭帯骨化症と言われたんだよ。」
聞いていた私は開いた口が塞がりませんでした。
「そういえば、両腕の痛みがなくなったよ。」
「え?」
「毎晩、両腕に湿布を貼って寝ていたんだよ。痛みで目が覚めることもあって。」
「そうなんですか?」
「今は湿布も貼らないでぐっすり寝ている。」
「え~本当ですか!」
少しずつだけれど、身体に現れる変化がみられていました。
毎年、寒い時期になると決まって鼻水がジュルジュルし出し、耳鼻科に吸引をしに行っていたけれど、今年は一回も行かずに済んだと嬉しそうでした。ここ数年は病気が(後縦靭帯骨化症)徐々に進行し、外出することも大変な状態になってきていました。しかし、ご本人の前向きな思いと、ご家族の協力もあり、少しずつ良い方に向かっていきました。
「孫が帰ってくる」と目尻を下げて楽しみに待っていたお正月はご家族とお出でかけに行けたことを喜んでいました。
「まだまだこの足で行きたいところがたくさんある。」と前向きな言葉にこちらが励まされます。
治療後、いつも玄関先まで見送ってくれるおじぃちゃん。
“無いと転ぶから”とあれだけ頼りにしていた“杖”を置いて、
「杖を忘れちょったが。はは。」と笑って見送ってくれました。
鮫島 佑梨子